長野地方裁判所 昭和58年(わ)49号 判決 1983年9月06日
裁判所書記官
小林忠男
本籍並びに住居
長野県北佐久郡浅科村大字桑山八六〇番地
会社役員
寺尾辰雄
昭和一五年一〇月九日生
出席検察官
検事 足立敏彦
出頭弁護人
弁護士 熊川次男(主任)、同上野猛
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金三六〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、工作機械と工具の販売を目的とする株式会社のほか二つの株式会社を経営するかたわら、商品取引員である株式会社西田三郎商店長野出張所及び株式会社小林洋行上田支店を介して、乾繭、大豆、小豆などの商品先物取引を行っていたものであるが、所得税を免れる目的で、右商品先物取引による雑所得をすべて除外し、これを仮名取引口座などを使用して行なっていた右商品先物取引の委託証拠金として右両会社に預託して蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
一 昭和五四年度分の総所得金額は一億九三四〇万三二二〇円で、これに対する所得税額は一億二七三七万八〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和五五年三月一五日、佐久市大字岩村田字内西浦一二〇一番地の二所在の所轄佐久税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一一八一万九五〇〇円で、これに対する所得税額は四一万二一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人の右正規の所得税額と右申告税額との差額一億二六九六万五九〇〇円を逋脱し、
二 昭和五五年度分の総所得金額は一億四九七二万九〇八〇円で、これに対する所得税額は九四一六万三〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和五六年三月一六日、前記佐久税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一二六四万二五〇〇円で、これに対する所得税額は三三万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人の右正規の所得税額と右申告税額との差額九三八三万三〇〇〇円を逋脱したものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 大蔵事務官作成の告発書
一 大蔵事務官作成の調査所得の説明書(損益)
一 大蔵事務官作成の別表
一 佐久税務署長作成の昭和五七年六月三日付及び同月一日付各証明書
一 大蔵事務官作成の売買差金調査書、委託手数料調査書、支払利息等調査書、謝礼金調査書、接待費調査書、振込手数料調査書及び貸付利息調査書
一 株式会社小林洋行上田支店支店長作成の答申書
一 被告人及び小宮山光弘作成の答申書
一 大蔵事務官作成の株式会社西田三郎商店長野営業所店調査関係書類
一 大蔵事務官作成の小林洋行上田支店調査関係書類
一 株式会社長野相互銀行上田支店支店長作成の証明書
一 大蔵事務官作成の八十二銀行松尾支店調査関係書類
一 大蔵事務官作成の長野相互銀行上田支店調査関係書類
一 小宮山光弘の大蔵事務官に対する質問てん末書三通及び検察官に対する供述調書
一 金箱幸敏の検察官に対する供述調書
一 奥山豊の大蔵事務官に対する質問てん末書五通及び検察官に対する供述調書
一 神田勝行の大蔵事務官に対する質問てん末書二通及び検察官に対する供述調書
一 宮本よしの大蔵事務官に対する質問てん末書
一 河西幸男の大蔵事務官に対する質問てん末書二通及び検察官に対する供述調書
一 田中徹の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 佐久税務署長作成の同年一二月四日付証明書二通
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一一通及び検察官に対する供述調書
一 被告人の当公判廷における供述
判示一の事実につき
一 大蔵事務官作成の五四年分修正損益計算書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五四年一月一日至昭和五四年一二月三一日)
判示二の事実につき
一 大蔵事務官作成の五五年分修正損益計算書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五五年一月一日至昭和五五年一二月三一日)
(法令の適用)
罰条
判示各所為につき、いずれも昭和五六年法律第五四号(附則五条)による改正前の所得税法二三八条一項(一二〇条一項三号)、二項。
刑種の選択
判示各罪につき、いずれも懲役刑と罰金刑の併科を選択。
併合罪の処理
判示各罪につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項(懲役刑については犯情の重い判示一の罪に法定の加重、罰金刑については各罪の罰金額を合算)。
罰金刑の換刑処分
刑法一八条。
懲役刑の執行猶予
刑法二五条一項(一号)。
(量刑の要点)
本件犯行は昭和五四年と昭和五五年の二年度にわたり商品先物取引による雑所得を全く申告せず、合計二億二〇〇〇万円をこえる多額の所得税を逋脱したものであつて、被告人の刑事責任は相当重いといわなければならないが、被告人が商品先物取引によつて利益をあげたのは右の二年度だけで、昭和五一年ころから昭和五三年末までには合計二億円余(但し、昭和五二年中は一時手を引いていた)、昭和五六年と昭和五七年には合計一億五六〇〇万円程の損失をこうむつていること、被告人は本件犯行を極めて深刻に反省し、所有財産を処分したり経営する会社から一億三〇〇〇万円程を借り受けて昭和五八年二月二四日までに修正申告にかかる本税二億二〇八五万三七〇〇円を全額納付するとともに、同年三月三〇日までに昭和五五年度分と昭和五六年度分の村民税及び県民税として合計四三五六万一八二〇円を納付し、重加算税合計六六二四万一二〇〇円と延滞税は未納であるが、分納する予定であること、被告人は昭和四二年に工作機械と工具の販売を目的とする株式会社を設立したほか、昭和四六年と昭和五一年に二つの株式会社を設立し、心血を注いでこれらの経営に当り、昭和五七年度の年商は合計約五四億円に伸ばし、その経営能力は優れ、地元経済界の信望も厚いこと、被告人には道路交通法違反で三回反則金を納付したことがあるだけで、他に前科前歴はなく、元来堅実な努力家であり、再犯のおそれもないことなどの諸事情を考慮。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 北澤貞男)